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浦野 敦

潰瘍性大腸炎の内因性増悪因子に関する衛生薬学的研究
浦野 敦(Atsushi Urano)

研究要旨

潰瘍性大腸炎の患者数は、最近急増していますがその病因については不明です。潰瘍性大腸炎の病理所見では好中球の浸潤が観察され、好中球から放出されるスーパーオキシド、過酸化水素、次亜塩素酸などの活性酸素種が腸管粘膜組織の傷害が病態増悪への一因となり得ることが報告されています。
次亜塩素酸は生体内に普遍的に存在する低分子アミン類と反応し、クロラミン類を生成することが考えられます。生体内のクレアチニン、グリシン、レシチンなど多くの窒素化合物は生体内でメチルアミンへ代謝されることから、私はメチルアミンに着目し、メチルアミンクロラミン類の炎症局所での生成を介した大腸炎症増悪作用について、動物モデルを用い検討をしました。またメチルアミンクロラミン類による炎症増悪機構をin vitro実験で解明し、慢性炎症の増悪化要因の新しい可能性を提唱しました。

潰瘍性大腸炎モデル動物を作製、メチルアミンを連日投与し、メチルアミン投与による下痢や下血などの症状を観察して炎症スコアを算出して経時的に炎症増悪を評価した結果、メチルアミン投与量依存的に炎症が増悪化しました。また、症状観察終了後、炎症部位を観察、損傷部分の面積を測定し評価し、炎症局所に浸潤している好中球数とミエロパーオキシダーゼ(MPO)陽性細胞数を測定しました。その結果メチルアミン投与量依存的に大腸陰窩の萎縮、杯細胞の消失、好中球数、MPO陽性細胞の増加が有意に観察されました。また、メチルアミンを5日間腹腔内投与したマウスの糞中メチルアミン濃度を測定しました。糞中のメチルアミン濃度はメチルアミン投与量依存的に上昇した。これらの結果から、糞中のメチルアミン濃度の上昇と炎症の増悪には正の相関があることが示唆され、大腸組織に移行したメチルアミンと炎症部位に浸潤している好中球由来の次亜塩素酸との反応によりメチルアミンモノクロラミンおよびメチルアミンジクロラミンが生成し、これにより炎症が増悪することが推察されました。
好中球に由来する酸化活性種の直腸投与による大腸粘膜細胞の損傷について過酸化水素、次亜塩素酸、メチルアミンモノクロラミン、メチルアミンジクロラミンを注腸した。その結果メチルアミンジクロラミンを投与群において粘膜損傷の指標であるアルシアンブルー染色、粘膜上皮の剥離、陰窩の萎縮などの形態学的な組織損傷、好中球の浸潤ならびに炎症マーカーの一つである3-ニトロチロシンの生成が顕著に認められました。これらのことから、メチルアミンジクロラミンは炎症由来の活性種の中でも強力な炎症誘発作用を有することが示唆されました。

赤血球ヘモグロビンの酸化を指標としたクロラミン類の酸化ストレス誘発能
赤血球を緩衝液に懸濁し、クロラミン類を赤血球懸濁液と反応させ、溶血率とメトヘモグロビン生成率を測定し、酸化ストレス誘発能を比較評価した。メチルアミンモノクロラミン、メチルアミンジクロラミンでは赤血球の溶血がほとんど起こらない曝露濃度においてヘモグロビンが酸化されメトヘモグロビンが生成しました。アンモニアクロラミン類(NH2Cl、NHCl2)では低濃度から赤血球ヘモグロビンに対する酸化作用が認められました。一方、HOClを赤血球に作用させたところ、赤血球が溶血し、メトヘモグロビンの生成はほとんど認められませんでした。このことから、メチルアミンジクロラミンをはじめとする低分子アミンクロラミン類による細胞傷害は、細胞膜を透過し発現するそれ自身の酸化性に起因することが示唆されました。

炎症メカニズムの解明において炎症細胞が放出する活性酸素種(O2-、・OH、H2O2等)がこれまで注目を浴びていましたが、本研究ではこれまでほとんど検討されてこなかった活性種(HOCl)と低分子アミンとの反応により生じるクロラミン類の生理活性が炎症の増悪において重要な役割を果たしている可能性が強く示唆されました。慢性炎症性疾患には酸化ストレスのみならず栄養の過多の寄与が推定されていますが、本研究ではそれらを包含するもので、多様な慢性炎症性疾患の増悪あるいは再燃さらには慢性炎症より進行する発がんなどの要因を解明する上で意義あるものと考えています。