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増田 雅行

電気生理学的手法を用いたヒトNa+/ taurocholate (TCA)共輸送ポリペプチド(hNTCP)の基質輸送機構の解析

目的

胆汁酸は、肝臓でコレステロールから産生され、胆汁中に分泌される比較的親水性のコレステロール誘導体である。胆汁酸の分泌は、胆汁流量の維持や胆汁脂質の分泌促進のみならず、コレステロールの恒常性の維持においても重要な役割を担っている。さらに、小腸に分泌された胆汁酸は、脂溶性ビタミンやコレステロール、水に不溶な薬物等の多くの脂溶性物質の可溶化剤としても機能している。

小腸に分泌された胆汁酸は、95%以上が小腸上皮細胞により再吸収を受け、門脈から肝臓へと運ばれ再び肝細胞に取り込まれる、いわゆる腸肝循環を受けている。これまでの研究から、胆汁酸の腸肝循環には肝臓、小腸上皮細胞において胆汁酸の取り込みを担う輸送担体の関与が明らかとされており、肝臓では主にNa+/TCA共輸送ポリペプチド(NTCP、SLC10A1)が関与している。胆汁酸の肝細胞への取り込みにおいて、その80%がNa+依存的な輸送機構による取り込みであることから、NTCPは胆汁酸の肝取り込みにおける主要輸送担体として重大な役割を担っている。このため、NTCPを介した胆汁酸の取り込みが阻害されると、胆汁酸血中濃度の顕著な上昇が起こり、細胞毒性、細胞膜の損傷、ミトコンドリアの機能不全や細胞代謝の変化などが惹起される。近年、NTCPは、胆汁酸以外にも構造の異なる様々な薬物を輸送することが明らかにされてきた。このNTCPの幅広い基質認識性により、NTCPを介した薬物間相互作用や薬剤によるNTCPの阻害に起因した胆汁酸の恒常性の破綻、それに伴う毒性の惹起が報告されている。更に、このNTCPの持つ幅広い基質認識性より、肝臓を治療対象とする薬物の肝臓への移行性が向上した例が多数報告されており、NTCPが肝臓への薬物送達のターゲットとして注目されており、NTCPは薬物動態学の観点から、重要な輸送担体の一つとなっている。

ところで、NTCPは、Na+と胆汁酸を共輸送するということは十分に証明されているものの、輸送分子機構:(i)胆汁酸に対するNa+の化学量論比や輸送担体の起電性,(ii)基質認識機構等に関する詳細については不明な点が多く残されている。そこで、我々は、NTCPの起電性を基質—誘起電流の測定により解明するために、大量かつ安定な機能を保持できることが期待出来る、hNTCPのアフリカツメガエル卵母細胞発現系の確立を行った。更に、この発現系を用いて、hNTCPによる胆汁酸の基質輸送機構の詳細を明らかにすることを目的として研究を行った。

方法

アフリカツメガエル卵母細胞におけるhNTCP発現系

ヒト肝臓totalRNAよりRT-PCRによりhNTCPをクローン化し、アフリカツメガエル卵母細胞発現ベクターpGH19組み込みRNA合成プラスミド(hNTCP/pGH19)を構築した。hNTCP/pGH19を鋳型としてcRNAを合成し、卵母細胞にcRNA(10ng)をインジェクションした。卵母細胞は、3日から4日間、18℃でインキュベート後、実験に用いた。hNTCPの代表的基質であるTCAの3H標識体 [3H]TCAを用いて、TCA輸送活性を測定した。放射活性は、液体シンチレーションカウンター (Tri-Carb 2910TR, PerkinElmer Inc.) を用いて定量した。

初代肝培養細胞を用いた取り込み実験

Sprague Dawley系雄性ラット(6週齢)からコラゲナーゼ処理法に従い、肝細胞を遊離した。William’s E培地(10% FBS, 10 nM insulin, 5 nM デキサメタゾン) 、37℃、5% CO2/95%air、の条件下で20時間培養したものをTCA取り込み実験に用いた。[3H]TCAを用いて、TCA輸送活性を測定した。

基質輸送に伴った誘起電流の測定

hNTCPのcRNAインジェクション3~4日後、基質輸送に伴った誘起電流を二電極電圧固定(TEVC)法(膜電位 -50 mV固定、CEZ1250(日本光電(株))により測定した。

結果および考察

1. アフリカツメガエル卵母細胞を用いたhNTCP発現系の構築

図1 hNTCP発現卵母細胞へのTCAの取り込み 図1 hNTCP発現卵母細胞へのTCAの取り込み
hNTCPのcRNAを卵母細胞にインジェクションを行い、機能解析に最適なhNTCPの卵母細胞における発現系の構築を行った。典型的なNTCPの基質であるTCAを用いて、取り込み輸送活性を検討した(図1)。 hNTCPのcRNAインジェクション卵母細胞は、コントロール卵母細胞に比べ300倍以上のTCA輸送活性を示した。この顕著な輸送活性はNa+非存在下ではコントロール卵母細胞と同レベルにまで低下し、Na+依存性TCA輸送であることが示された。このNa+依存性TCA輸送活性がhNTCPを介したTCAの取り込みか否かを検討するために、基質濃度依存性およびNa+濃度依存性を検討した(図2)。
図2 hNTCPを介したTCA取り込みの速度論的解析 図2 hNTCPを介したTCA取り込みの速度論的解析
TCA取り込み輸送活性は基質濃度の増大に伴い、ミカエリスメンテン型の飽和性を示した(図2A)。Eadie-Hofstee プロット(挿入図)より、一つの飽和コンポーネントからなることが明らかとなった。そのミカエリス定数(Km)は10.5 ± 2.9 μM、最大取り込み速度は18.6 ± 1.5 pmol/10 min/oocyteと算出された。卵母細胞発現系におけるKm値は、hNTCP動物細胞発現系あるいはヒト肝細胞を用いて求められたKm値と同程度の値を示した。一方、TCAと共輸送されるNa+濃度を増加させたときに、TCA取り込み速度がどのように変化するかを測定した(図2B)。TCA取り込み速度は、Na+濃度の増加に伴い、シグモイド型の飽和を示した。図2B挿入図に示すHillプロットにより、Hill係数h = 1.9 ± 0.1 ; K0.5=26.9 ± 2.0(mM)と算出された。このことにより、hNTCP を介した1分子のTCAの輸送は、少なくとも2個のNa+が共輸送される、起電性輸送であることが示唆された。更に、taurochenodeoxycholate、cholate、deoxycholate、ursodeoxycholateやlithocholateなどの内因性の胆汁酸(BA)を含む様々な化合物によるTCA輸送活性阻害により、卵母細胞に発現したhNTCPの基質認識性を検討した(図3)。TCAの輸送活性は、濃度依存的に顕著に阻害され、卵母細胞発現のhNTCPが動物細胞発現系およびヒト肝細胞におけるhNTCPの基質認識性と同様の性質を示した。一方、胆汁酸とは全く構造の異なるフルバスタチンやロスバスタチン等のスタチン系化合物もTCA輸送活性を濃度依存的に阻害したことから、hNTCP がBAと構造の異なる化合物も輸送基質として認識する能力を有していることが示唆された。
図3TCAの取り込みに対する各種胆汁酸(A)およびスタチン系化合物(B)の阻害効果 図3 TCAの取り込みに対する各種胆汁酸(A)およびスタチン系化合物(B)の阻害効果
TCDCA : taurochenodeoxycholate,CA : cholate,DCA : deoxycholate,UDCA : ursodeoxycholate,LCA : lithocholate #:有意差なし、*:p <0.05、マークなし:p <0.01

アフリカツメガエル卵母細胞発現系hNTCPと初代培養肝細胞における内在性NTCPとの相同性

図4 初代培養ラット肝細胞へのTCAの取り込み時間推移(A)およびNa+濃度の影響(B) 図4 初代培養ラット肝細胞へのTCAの取り込み時間推移(A)およびNa+濃度の影響(B)
アフリカツメガエル卵母細胞に発現しているhNTCPが肝細胞に内在的に発現しているNTCPと同様の機能を保持しているか否かを確認するため、初代培養ラット肝細胞を用いてTCAの取り込みにおけるNa+依存性を検討した。図4には、初代培養肝細胞によるTCAの取り込みの経時的変化およびNa+依存性をまとめた。TCAの取り込みは2分まで直線的に増加し、その2/3がNa+依存的な取り込みであった。また、肝細胞によるTCAの取り込み活性はNa+濃度依存的に増大し、その増大様式はシグモイド型を示した。Na+依存性をHillプロットにより解析したところ、Hill係数はh = 1.9 ± 0.3、 K0.5=89 ± 21(mM)と算出され、1分子TCA輸送に少なくとも2個以上のNa+が共輸送されていることが明らかとなった。このとこから、卵母細胞に発現させたhNTCPは、肝細胞において内在的に発現しているNTCPの機能を保持していることが示唆された。

電気生理学的手法を用いたNTCP基質輸送に伴う誘導電流の定量とhNTCPの起電性輸送の実証

これまでのhNTCP発現卵母細胞を用いた速度論的解析により、hNTCPは起電性輸送担体であることが示唆された。そこで、TEVC法を用いて、TCA輸送に伴った誘起電流を測定したところ、TCAの添加により内向きの電流が誘起された。その誘起電流はNa+非存在下では完全に消失した。一方、コントロール卵母細胞においては、基質添加により誘起電流は検出されなかった。これより、このhNTCPを介したTCAおよびNa+の共輸送に伴った誘起電流であることが明らかとなった。更に、TCA輸送に伴った誘起電流は飽和性を示し、誘起電流におけるKm値は30 + 6.2 μMと算出された。誘起電流におけるKmは、動物細胞発現系hNTCPおよびヒト肝細胞において求められた値とほぼ等しい値を示し、hNTCPを介した基質—誘起電流は、生理的状態でのTCA基質輸送を反映していることが示唆された。
図5 hNTCPを介した胆汁酸およびスタチン系化合物による誘起電流 図5 hNTCPを介した胆汁酸およびスタチン系化合物による誘起電流
そこで、本測定系を用いて、他の胆汁酸TCDCAや種々のスタチン系化合物の基質輸送—誘起電流を測定した (図5) 。 TCA同様、TCDCAにおいても同様に内向き電流が誘起されることが確認された。TCDCAにより誘起された電流は、TCAと比較して大きいことから、TCAに比べて、良好な基質であることが示唆された。更に、スタチン系化合物ではフルバスタチン、ロスバスタチン、プラバスタチンの順の基質輸送-誘起電流を示した。これら、誘起電流は、Na+非存在下では、完全に消失した。これより、観察された基質誘起電流は、これら化合物とNa+の共輸送に伴った誘起電流であり、これらスタチン系化合物もNTCPにより輸送されることが示された。本研究において確立した発現系および電気生理学的手法は、ラジオアイソトープやLC-MS/MS等の精密な測定系を用いることなく、hNTCPの基質輸送活性の測定および基質認識性の探究を可能とする有用なツールの一つであることが明らかとなった。

結論

我々は、hNTCPのアフリカツメガエル卵母細胞発現系を用いて、基質—誘起電流を測定することによりNa+/胆汁酸共輸送担体であるhNTCPが起電性であることを実証した。更に、この発現系を用いて、hNTCPは、胆汁酸のみならず構造の異なるスタチン系化合物を輸送する能力を有していることを明らかにした。このhNTCPの幅広い基質認識性は、肝臓への薬物到達の分子ターゲットとして有力な候補の一つであることが明らかとなった。

参考文献

1)Alrefai W.A. and Gill R.K. (2007) Pharm. Res., 24, 1803-1823.
2)Hagenbuch B., Stieger B., Foguet M., Lübbert H., Meier P.J. (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88, 10629-10633.
3)Weinman S.A.(1997) Yale J Biol. Med., 70, 331-340