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真坂 亙

VIP-Lipopeptideを組込んだ新規ドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発
~ リポソーム機能性向上のための新規Linkerと VIP- Lipopeptideの合成と評価 ~
 リポソーム製剤によるActive Targeting型DDSが最近注目されおり、高効率かつ自由度の高い表面修飾方法の開発が実用化の鍵を握っている。固相合成可能な“Lipopeptide”(Fig.1)は任意のpeptideによるリポソーム表面修飾と機能発現が可能であり、新規に分子設計したLipopeptideによりpeptide修飾の高効率化を達成し、さらに血管作動性腸ペプチド(VIP)の修飾によるリポソーム機能制御を行った。

 本研究で使用したLipopeptide分子は、疎水性相互作用によりリポソーム膜に固定化させるMembrane Anchor Domain、リン脂質でのグリセロ骨格にあたるGlycero mimic Domain、リン酸基にあたるHydrophilic Charge、ペプチドの機能発現における立体障害を回避するためスペーサーとしての役割を果たすLinker Domainなど合理的に設計している。この中でLinker Domainはリポソームに組み込んだ際、ペプチドを受容体に認識させやすくする役目とLipopeptideの溶解性などの物性をコントロールする役割を持ち、ペプチドの高効率修飾の可否を左右する部分であると考えた。そこで、Linker Domainの親水性を高めることがリポソームへの修飾率向上に繋がると考え、Lipopeptideに長さの異なるLinker Domain4種類(L-1、L-2、L-4、L-X:Fig.2)をそれぞれ組み込んだLipopeptideを合成した。
 ペプチド修飾リポソームの細胞系評価には血管作動性腸ペプチド(VIP)を用いた。このペプチドは多数の腫瘍で受容体が発現しているとの報告がある。本ペプチドを表面修飾し、腫瘍細胞に選択的なActive Targeting型DDS が可能となりうる“VIP-Lipopeptide修飾リポソーム製剤”を調製した。VIP受容体認識能の評価では塩酸ドキソルビシン(DOX)内包リポソームにペプチド修飾を施し、VIP受容体過剰発現の報告があるヒト由来骨肉腫細胞株Saos-2に対する抗腫瘍細胞活性を指標に評価した。さらに、VIPは神経ペプチドPACAP(Pituitary Adenylate Cyclase Activating Peptide)と高い相同性を持ち、その受容体には3つのサブタイプが存在する。PACAPに結合親和性の高いPAC1受容体およびPACAP並びにVIPが同等の親和性で結合しうるVPAC1受容体とVPAC2受容体である。   これらの受容体が活性化されると細胞内シグナル伝達としてcAMPを生成して、蛋白質キナーゼ経路を活性化することから、VIPが結合するPACAP受容体(VPAC2受容体)を安定発現させたCHO細胞株(Chinese Hamster Ovary)からのcAMP産生量を測定することで受容体の認識能を検証した。

 4種類のLinker Domain(Fig.2)のうちL-X については、出発物質の2,3 -O-Isopropylidene-D-threitolより4工程にて目的物質である化合物L-Xを合成した。
 これらリンカーを用い、ペプチド自動合成機にてFmoc固相合成法により各VIP-Lipopeptideを得た。Bangham法でリポソームを調製後、Post Insertion法により合成したこれらVIP-Lipopeptideをリポソームに修飾した。さらに、pH勾配法によってDOXを内包させ、VIP-Lipopeptide修飾DOX内包リポソームを得た。Post Insertion法後のVIP-Lipopeptide-L-1、L-2、L-4およびL-XそれぞれのVIP修飾率は、リポソームの脂質モル濃度に対し0.64、0.88、0.72、0.59mol%で修飾することが出来た。リンカー部位の分子設計は、ペプチド部分を脂質膜から遠ざける長鎖であることが望ましく、親水性の増大は修飾率の向上にほとんど寄与しないことが明らかになった。
 Saos-2細胞株を用い、それぞれのVIP-Lipopeptide修飾DOX内包リポソームについてWST Assayを行い、腫瘍細胞生存率(IC50)の結果からVIP-Lipopeptide未修飾DOX内包リポソーム(Plane)に対し、その活性の強さをIC50/Planeで示し比較検討したところ、VIP修飾率の低いLipopeptide-L-1・L-X修飾DOX内包リポソームは1.8~2.2倍であったが、VIP修飾率の高いLipopeptide-L-2・L-4修飾DOX内包リポソームは5.8~6.1倍抗腫瘍細胞活性が増加しており、VIPリガンド修飾量依存的な抗腫瘍作用が発揮された。
 VIP-Lipopeptide-L2修飾リポソーム(L2-リポソーム)を用いVPAC2受容体発現CHO細胞株に対する受容体認識能をcAMPの産生量をRIA法にて測定し評価した。野生株のCHO細胞ではいずれもcAMPの産生が低値であったのに比べ、VPAC2受容体を発現しているCHO細胞ではL2-リポソームによるcAMPの産生量はVIPペプチド水溶液の77%に達した(100nM添加時)。VPAC2受容体発現細胞選択的かつ濃度依存的にcAMPを産生したことから、L2-リポソームは、PACAP/VIP受容体を認識していることが示唆された。
 VIPおよびリポソーム未修飾各種VIP-Lipopeptide(Lipopeptide-Linker)自身の細胞毒性は、Saos-2に対する抗腫瘍細胞活性試験と同様の手法で細胞実験を行った結果、製剤自体の毒性は低く、抗腫瘍細胞活性の向上はペプチド修飾による抗腫瘍細胞活性の向上と考察された。

 ペプチドの高密度修飾を目的としたリンカー合成研究では、水溶性よりもリンカー長の延長が有効であるとの結論を得た。これらを用いたVIPペプチド修飾リポソームでは、抗細胞活性の向上のみならず細胞内シグナル伝達の賦活効果を得た。本研究ではVIPのようなペプチドをリガンドとして、その受容体をターゲットとする上では幅広い応用が期待できる結果となり、新規Active Targeting型DDSの開発に繋がる成果と考えた。